野菜

行った場所の記録

バレンタイン奮闘記2021

 

苦手なことをランク付けると1位に短距離走、2位に図画工作、3位にお菓子作りがいる。

だいぶ前になるが何年か前、珍しくお菓子を作っていた時期がある。ホットケーキミックスを駆使して黒山を作ったり、寒天溶かしたお湯をシンクに流してシンクを寒天コーティングしたりしていた。かなり現実が厳しい。

 

彼氏と付き合い始めて早3年半、4回目のバレンタインを迎えた。1年目、2年目は彼が好きそうな市販のチョコレートを贈っていた。3年目はたまにはと思いほぼ溶かして固めるだけの生チョコレートを贈った。

来る4年目。何を贈る。年に一度のバレンタインせっかくなら彼の好きなものを贈りたい。

1月、ワー◯ドトリガー(彼が1番好きな漫画)のバレンタインチョコレート(市販)を出してくれと星に願った。願いも虚しくそんなものは販売されなかった。七夕の時点で願っとくべきだった。

彼は手作りを強要したりはしないし、好き嫌いもないから何を渡しても喜んでくれる。去年のつたないチョコレートだって美味しいと言って食べてくれた。なので、バレンタインを凝りたい、彼の特別好きなものをあげたいと思うのはは、あくまでわたしのエゴではあるのだけれども。

 

結局、うんうんうなって出した答えは「鳥」だった。

彼は鳥を飼っている。品種はコザクラインコ。目がキュルンキュルンで愛らしく、人懐っこくてピーッと鳴きながらよく人の頭に止まる。お世辞抜きで可愛らしい小鳥だ。わたしは時たま彼の飼う小鳥に会うとブブブブと怒られて指をガジッと噛まれている。すみません。でも欲を言えば仲良くなりたいです。

鳥を飼っていると鳥が好きになるの?と以前聞いたことがある。「うーん、どうだろう。あんまりわかんないなあ」と彼は答えた。

そんな彼は動物園に行くと鳥類の展示場所の滞在時間が他の動物を見ている時間よりもあきらかに長い。道端で鳩やすずめが通りがかれば必ず目で追うし、冬のモフモフ鳥たちを柔らかい表情で「かわいいね…」と眺める。公園の池に鷺が止まれば携帯のカメラを向けてじりじりと近寄っている。鳥大好きじゃん。

 

欲をいえばコザクラインコ、あるいは鳥をモチーフにした菓子はないのだろうか。

「鳥 モチーフ チョコ」

検索したら一件ヒットした。ゴンチャロフのアニマルチョコレート。まんまるでなかなか可愛い。これは良いのではないか?

しかしながら、ゴンチャロフのサイトで検索をかけても鳥のチョコレートがヒットしない。

犬と猫しか出てこない。例年鳥モチーフのチョコを出しているゴンチャロフはどうやら今年は鳥をやめているらしい。

ゴンチャロフの愚策、と思いながら微妙にワードを変えて検索を重ねた。アイシングクッキー専門店の通販、あるいはオーダー制の製菓店の通販はあるがそのほかには出てこない。

通販は期日に間に合わなかったらどうしようという不安があった。あと、あまりネットショッピングをしないから支払いとか送料とか配送とかがうまくいくか不安だ。

頭を抱えて畳の上をゴロゴロ転がり1時間、わたしは自らの手で彼の飼う鳥を錬成することに決めた。

 

錬成するために用意したのは粉砂糖、小麦粉、バター、卵、食紅(赤、黄)、抹茶パウダー、チョコぺん。察しの良い方はお気づきだろう鳥錬成の素はクッキー生地である。あと、卵型に切った型紙とクッキングペーパー。リアルな鳥を再現するのはわたしの技量では無理があるからデフォルメ小鳥を作る予定だ。

 

作れる?本当にいける?

ちなみに、最後に製菓作りをしたのは昨年5月、コロナ禍買いだめ期間に冷蔵庫が壊れ、食材を絶対に無駄にせぬ我が家のポリシーに従い、小麦粉と牛乳、砂糖、あるだけありったけのマーガリンを入れたクッキーを作って以来である。ねえ、知ってる?マーガリンって限界を超えて入れるとオーブンの中から染み出して地獄の釜のごとくグツグツとクッキーのまわりで沸騰し始めるんだよ。出来上がりはなんだかどんぐりに似ていた。食感は固め。大量にできたので朝昼晩問わずボリボリ食べた。地獄マーガリンどんぐりクッキーのおかげか体重は2日で2キロ増えた。

 

さて、材料を混ぜ合わせる。生地作りでボウルの数が足りず頭を抱えたり、卵の量が少なすぎてホロホロパラパラになってしまった生地を無理やり握ったりして2時間、奮闘のかいあってどうにか形にはなった。

切ったりこねたりしているうちにそれっぽいものが2つ出来上がった。

いよいよ焼く工程になった。失敗すれば彼の飼っている鳥を(クッキーといえども)焼死体にしてしまう。重罪。

クッキー、アルミホイルをかけて焼くと焦げ目がつきすぎずにできるという。

いざっ…

 

    〜作り始めて5時間が経過〜

 

アルミホイルのおかげで焼死体にはならずに済んだ。

不器用かつ普段お菓子作りをしないことが祟り肌がちょっと乾燥気味なデフォルメ小鳥ができあがった。

途中天板ごと余熱をしてしまうハプニングはあった(「どうしよう?!」と半ギレで母に電話したところ態度があまりに悪かったのでキレてブツ切られた。)がギリ及第点な気がする…ひび割れたハートクッキーが折れかけている自分の心が重なり合ってなんかすごく愛おしくなってしまった…ああ…

 

顔を描き、くちばしを付けた。

命が吹き込まれている感じがする。多分つぶら黒い瞳(原料チョコ)で見つめられているから。このチョコ、全然固まらなくてラッピングするときヨレかけてヒヤヒヤした。目がドロドロのインコがこちらを見つめているのは結構ホラーだ。冷暗所で保管。

 

本当は11日に練習、13日に本番、15日に彼のもとに持っていく。というようにしたかったのだが11日の時点で疲れ果てたので「もう一回作る気力がないので、デートを早めてほしい。」と連絡をした。こころよく快諾してくれたので、そういうところが本当に好きだと伝えた。

ラッピングを終え、一息ついて、ラッピング用の袋からつぶらな瞳を覗かせるコザクラインコのクッキーをぼんやり見つめた。焼死体を免れたら飼い主に食べられる運命なのか…と思った。情が湧きはじめている。

どうか美味しく愛でてやってくれと思いつつ、バレンタインには少し早い13日にデートの予定を書き込んだ。

 

f:id:almond888:20210212004529j:image