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行った場所の記録

ぬばたまの黒髪、爆発する毛量

美容院で「超健康毛ですね!」と言われたことがある。美容院の鏡の中、一度も染めたことのない黒々した髪は濡れて白く光っていた。

 

髪の毛が太い。おまけに毛量が多い。

部屋の中や洗面台のまわりでわたしの毛が落ちていると絶対わかる。主張が強い。洗面台に落ちた髪の毛を眺めていると「髪の毛です!!!」という声すら聞こえる気がする。あと、大量に落ちてる。

昔からこの髪の毛を結構持て余していて、基本的にはショートヘアで過ごしていた。

髪を伸ばそうと思ったことがまったくないわけではない。右側の毛先だけ跳ねる癖、無尽蔵に増える毛量、湿度が高いと膨張する頭のシルエット…これらの問題をどうにかするには切ったほうが早く解決した。乾かすの楽だし。

思春期に母親に髪の毛の相談をしたことがあった。母は柔らかくて細い髪の毛をしていてボリュームも少なかったため、わたしの相談内容がおそらく根本的に理解できなかった。「ブローしたら?」という答えが返ってきたため、ブローをしてみたらわたしの髪は空気を含み、ひとまわり膨れた。あと、癖も改善されずに元気よく跳ねた。

 

当時通っていた美容院は10年くらい通っていたところで親も弟もここに通っていた。小学校と中学校の近くにある地域密着型だったため、髪を切りに行く度に同級生の誰々がこないだ髪を切りにきた。という情報を聞きながら切られていた。

ショートにしてくださいと言うとモンチッチのような髪型に、毛量を減らしてくださいと言うとシャギーを入れられて花男2の牧野つくしのような髪型になった。

安かったので通っていたのだが、高校を卒業する前に行ったら家族の様子をずっと聞かれて嫌だったので美容院を変えることを決意した。このころ我が家は離婚して日が浅かった。

 

大学に入学してからは成人式に備えてと、美容院に行くのが嫌なのもあって髪を無尽蔵に伸ばしていた。おそらく相当ボサボサになっていた。成人式が終わると速攻でホットペッパービューティを開いた。PR漫画のネタみたいだ。

人生ではじめて美容院を変えたのでドキドキしながら切りに行った。平日の昼間、全然話しかけないタイプの美容師さんに当たったために静寂の中で髪の毛を切った。カルチャーショックを覚えたが、見せた写真に近い仕上がりになっていたため通うことにした。美容院代が2500円から4400円にレベルアップした。

そこから3年くらいは髪をどんどん短くしていって、うなじが見えるくらいのショートヘアにしていた。働きはじめてしばらくして最近ショートにも飽きてきたから伸ばそうとぼんやり思った。

 

23歳、気まぐれにヘアマスクを買った。コスメのアウトレットショップセルレで半額だったから。

家に帰ってつけてみると髪がサラサラになった。お風呂上がりふんわりと蜂蜜の香りが漂った。

この調子で、と思い美容院に行った。金髪のお兄さんが髪の毛を切ってくれた。髪をドライヤーで乾かしているときに話しが弾んだため、お互いの声が聞こえずに会話がめちゃめちゃになった。

前髪の分け目の短い毛が浮きやすいのでワックスを使ってくださいね。と帰りがけに言われた。23年生きていてはじめて知った情報だった。モチベーションが上がっていたので帰りにヘアトリートメントを買った。

週に2回のヘアマスクと、毎日のトリートメントをするようになって髪に優しくなった。毎晩きちんと髪を乾かしてトリートメントを染み込ませた。

アホ毛と寝癖が劇的に減り、癖毛も無くなった。

高校生のころにサラサラの髪を巻いていた同級生たちや、大学生のころに明るい色に染めていた彼女たちはきっとこういうことをきちんとやっていたのだろうな…と思った。

23歳OLにして、はじめて髪の毛との向き合い方の一端を理解した。もっと早く向き合うべきだった気がしなくもない。怠惰な自分からは目を逸らし、今わたしの髪の毛は人生の中で1番さらさらである。