野菜

行った場所の記録

杉浦非水展に行ってきた

令和一発目の誕生日は実習2日目に決まった。今年の誕生日のお祝いは全て前倒しで行われて今現在、わたしの手元には5月28日という日にちしか残っていない。

大学生活の一大イベントかもしれない3週間が不安すぎて正気と発狂を繰り返し繰り返し、とりあえず前々から行きたかった杉浦非水展に滑り込みで行ってきた。

ところで、わたしは大正時代が一番好きだ。それ故に近現代文学ゼミナールを選んだところはちょっとある。以前、それが興じて行ったモボモガ展が最高だったのだけれどそこで知った画家が杉浦非水だった。

雑誌の装丁や、ポスターを手がけた画家。明治時代、西洋美術で名を成した黒田清輝の弟子らしい。解説を見てから展示室に入って地面に貼ってある進行方向の矢印ステッカーがまず良かった。

はじめのブースは花や虫、貝の模写。個人的には貝が鮮やかで色っぽくて好きだった。このブースには非水が持っていた映像が上映されていて藤田広嗣のパリへの出港の様子が流れていた。

次のブースは宣伝看板の原画とポストカードが並んでいた。個人的に好きなのはヤマサ醤油の宣伝の看板の原画だった。赤と青と黄色の三色がレトロにポップに使われている。こんなワンピースが欲しいなと思った。醤油自体は茶色一色、渋い感じのポスターになってもおかしくはなさそうなのに。一緒に行った知人が日立電気冷蔵庫の宣伝(シロクマが描かれている)に心惹かれていた。青と黄色とオレンジで書かれたそれは冷たさと電力の両方が伝わってくるようだった。

ポストカードのほうでは白い鶏とその影だろうか、黒い鶏との喧嘩の様子を赤と黒と白の三色でくっきりと描かれたものが印象的だった。4枚で一組、かっこよくて洒落た鮮やかなポストカード。どのカードも看板も過度に多くの色は使わずどの色も際立っているのがとても見事だった。

その近くのブースでは雑誌の表紙も多く飾られていた。この展示に限った話ではないが大正時代のフォントは同じものが一つとしてないような気がする。雑誌三越の歴代の表紙がずらりと並んでいたけれどフォントの統一はなされておらず「三」が傾いているもの、太字になっているもの縦書きの草書体で書かれたもの、右から読むもの、左から読むもの…最近は明朝やゴシックなど名前のついたフォントが基本になっているが大正時代はそういったものがあったのかなかったのかふと思った。

展示していたのはワンフロアだった。1時間半ほどで一通り見終わって一緒に見にいった人と感想を言い合った。彼は構図や用いられた画材について話しているのに対してわたしは色の使い方、こんな着物やワンピースがあったらいいのに。ということを話していることに気がついた。

大学に入ってから美術展に行くことは時々あったが絵の奥深さや芸術についてはよくわからないことが多かった。彼と感想を言い合う中でわたしはお洒落なものであるかどうか。という観点で絵を見ているのだろうなと思った。

美術的な観点でも、文化的な観点でも、ファッションの観点でも、見ることができる杉浦非水展。自分の気づきも含めてギリギリでも行けてとても良かったなと思う。