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行った場所の記録

肉筆浮世絵名品展に行ってきた。

 春の吐息を感じさせつつも、北風が吹き荒ぶ2月頭に太田記念美術館40周年記念の肉筆浮世絵名品展に行ってきた。

若者や観光客があふれる原宿駅にほど近い、大通りから路地に入った閑静な場所にこの美術館はある。わたしがこの美術館に出会ったのは2年前。大学の課題で美術館に関する発表をしなければならなくなり、怖い浮世絵展を観に行ったことがきっかけだった。

手拭い専門店、かまわぬを横目に見つつ小さな入口から中に入ると受付はほどほどの人口密度になっていた。チケットを購入し、展示室に入る。

今回の展示会の目玉は歌麿北斎、応為であった。わたしは奥行きの描き方や明暗の美しさで一時ツイッターを騒がせた北斎の娘、応為の『吉原格子先之図』を一目見たいと思い足を運んだ。

展示室は一階と、二階にあり、応為の絵は一階の序盤に飾られていた。想像よりも小さな絵の中で光に照らされた花魁の顔や着物の赤、部屋の中の明かりに照らされた若い衆の様子は幻想的で艶やかで、どこか近代的な美しさを醸し出していた。

解説パネルには北斎美人画に関しては応為に敵わないと語ったと書かれていて、その才能を知るには十分なものだった。少なくとも応為の絵以上に繊細で艶やかな作品はその場にはなかったと思う。

となりにあった北斎の虎の絵も非常に迫力があった。対になっているという龍の後並んだらどんなに見事であろうか。その後、二階に行った際に『羅漢図』を見たがそれも圧倒的なかっこよさがありとても印象的だった。

応為と北斎の迫力ある絵を見た後はゆっくりと他の展示を見て回った。花魁や美人を描いたものが多く、着物の柄や重ね方が洒落ていて美しかった。

花魁、武士の娘、奥方。さまざまな美人の姿とそれぞれに合った着物の着方や色の重ね方は見ていてとても興味深い。

魅力的なものは多かったが個人的には磯田湖竜斎の『雪中美人図』が好きだなと思った。

雪がまばらに残る中、風に煽られる娘の姿は可憐で、舞い上がる水色の着物からちらりと赤い襦袢がのぞくのは着物にしか出せない色気があった。黒い帯をきりりと締めているのも良かった。

最近、西洋のものや近代のものばかり見ていたので江戸時代の浮世絵に触れたことは新鮮な体験だった。

一通り満喫して美術館を後にし、しばらく歩くとオリンピック後に解体予定のJR原宿駅の姿があらわれた。街並みをそっくりそのまま残すことはできないが、絵はそれを可能にするのだろうな。そんなことを思いつつ、大正時代より原宿の玄関口として建っているその駅舎を写真におさめた。