いよいよ最終日の朝が来た。
荷物をまとめて、メモ用紙にお礼を書き、チェックアウトの手続きをした。
外に出て、荷物をロッカーに入れたあと、初日に気になった甘味処に向かった。小さくてカラフルなしめ飾りがぶら下がった素朴で可愛らしいお店である。中にはいると、猫のぬいぐるみと目があった。レトロな木製の机に案内された。出されたメニューには写真がついていたため、それを参考に頼んだ。ドリンクは花茶というメニューがあったためそれを付けた。店内には台湾の自然の風景を撮った写真や絵が飾られていた。今回の旅行では台北のあたりしか回らなかったが台中の方に行くとまた違う雰囲気になるのだろうか。とふと思った。
存外早く頼んだものは来た。わたしが頼んだものからは甘く爽やかな香りが立ち上っていた。
同行者は朝から甘いものを食べる気にあまりならないらしくにゅうめんのようなものを頼んでいた。訊いてみたらビーフンだとのこと。
花茶を一口口に含むと紅茶とは少し違う香りがした。桂花陳酒の香りに少し似ている気がした。続いて頼んだものを口に運んだ。どろどろしていて豆と白玉のようなものが浮かんでいるぜんざいのような見た目だがどんな味がするんだろうか。
スッと鼻に香りが通った。ミントが入っているらしい。続いてややもったりした甘みが舌の上に広がった。個人的にはとても好きな味だった。花茶との相性も良くて日本でどこか食べられるところはないのかな…と思った。
朝食を満喫したあとは龍山寺に向かった。この日は最終日のため、西門町の近いところを観光してお土産を買おうということになっていた。
龍山寺に向かう途中、観光雑誌に「地元の人が鳩に餌をやってる」と書かれている場所が近くにあったため立ち寄った。地元の人はいなかったが尋常では無いレベルの鳩は見ることができた。鳩への餌やりを禁止される前の浅草寺が思い出された。
同行者が鳥好きのため、鳥を扱っているお店が多くある通りにも寄った。木で作られた鳥籠に文鳥やインコが飼われていて情緒があった。品定めをしている人もいた。
寄り道をしつつも時期に龍山寺にたどり着いた。赤や黄、青、金色が使われた門は遠目から見ても目立った。上野の東照宮にちょっと似ている。
入館料を払い、中に入ると朱塗りの柱が等間隔に並んでいた。壁には彫刻が施され、豪華絢爛の四文字が似合う場所だった。よくよく見ると柱の根本には金の飾りがつけられている。日本の寺とは様相が随分異なっていた。
突き当たりまで進むと柔和な表情の仏様と天女のような女性の像が置かれていた。部屋の中には日本のものより鋭い線香の香りが満ちていた。線香を一つ買い求めて煙を立てた。
一通り中を見終わると時刻は12時。台湾に来てからまだ一度も小籠包を食べていないことに気がついたため、近くの食堂に入った。
台湾ビール(瓶)を頼み乾杯をした。小籠包と水餃子、青椒肉絲を頼んだ。この八角の匂いともお別れなのか…と思うと鼻の奥が少しだけツンとした。わたしはご飯を食べることが下手くそなので小籠包を無理に口の中に押し込んで食べて熱々の肉汁で口の中を火傷だらけにした。
ヒリヒリ痛む口をもごもごさせつつ、お土産を探すべくショッピングモールに向かった。
とりあえず、パイナップルケーキを買い求め、ぶらぶらしていると九份で見た半額の値段でチャイナシューズが売っていた。水色のその靴は自分の持っているワンピースによく合う気がして即決で買った。
思いもよらぬ良い買い物に上機嫌になったため、その後思い切って少し大きめなからすみも買った。同行者は旅行でテンションが高めだからか珍しく珍味っぽいものもちょこちょこ買っていた。
買い物もひと段落つき、足が疲れたためにカフェに入った。かき氷も食べていないと気がついたためマンゴーのかき氷を頼んだ。マンゴーはトロトロで甘くて美味しかった。ただし、先ほど火傷だらけにした口のなかに果汁がとても染みて痛くて泣きながら食べた。悲喜交交。
かき氷を楽しんでいるうちにバスの時間が近づいてきていた。ショッピングモールを出て、ロッカーから荷物を回収して空港行きのバスが来るバス停に向かった。
「楽しい旅行だったね。」どちらからともなくその言葉が出た。1番よかった場所、1番美味しかったもの。それぞれの感想を言い合った。
バス停に着き、しばらくするとバスが来た。バスに乗ると甘栗の匂いがした。揺られること30分、空港に着いた。
搭乗手続きをして、荷物を預けて飛行機に乗った。日本語と中国語が混ざる空間。アナウンスが流れて飛行機が飛んだ。
台湾がどんどん遠くなっていった。
ありがとう台湾。はじめての海外旅行が台湾でよかった。
台湾で食べた料理一部抜粋