野菜

行った場所の記録

ぬばたまの黒髪、爆発する毛量

美容院で「超健康毛ですね!」と言われたことがある。美容院の鏡の中、一度も染めたことのない黒々した髪は濡れて白く光っていた。

 

髪の毛が太い。おまけに毛量が多い。

部屋の中や洗面台のまわりでわたしの毛が落ちていると絶対わかる。主張が強い。洗面台に落ちた髪の毛を眺めていると「髪の毛です!!!」という声すら聞こえる気がする。あと、大量に落ちてる。

昔からこの髪の毛を結構持て余していて、基本的にはショートヘアで過ごしていた。

髪を伸ばそうと思ったことがまったくないわけではない。右側の毛先だけ跳ねる癖、無尽蔵に増える毛量、湿度が高いと膨張する頭のシルエット…これらの問題をどうにかするには切ったほうが早く解決した。乾かすの楽だし。

思春期に母親に髪の毛の相談をしたことがあった。母は柔らかくて細い髪の毛をしていてボリュームも少なかったため、わたしの相談内容がおそらく根本的に理解できなかった。「ブローしたら?」という答えが返ってきたため、ブローをしてみたらわたしの髪は空気を含み、ひとまわり膨れた。あと、癖も改善されずに元気よく跳ねた。

 

当時通っていた美容院は10年くらい通っていたところで親も弟もここに通っていた。小学校と中学校の近くにある地域密着型だったため、髪を切りに行く度に同級生の誰々がこないだ髪を切りにきた。という情報を聞きながら切られていた。

ショートにしてくださいと言うとモンチッチのような髪型に、毛量を減らしてくださいと言うとシャギーを入れられて花男2の牧野つくしのような髪型になった。

安かったので通っていたのだが、高校を卒業する前に行ったら家族の様子をずっと聞かれて嫌だったので美容院を変えることを決意した。このころ我が家は離婚して日が浅かった。

 

大学に入学してからは成人式に備えてと、美容院に行くのが嫌なのもあって髪を無尽蔵に伸ばしていた。おそらく相当ボサボサになっていた。成人式が終わると速攻でホットペッパービューティを開いた。PR漫画のネタみたいだ。

人生ではじめて美容院を変えたのでドキドキしながら切りに行った。平日の昼間、全然話しかけないタイプの美容師さんに当たったために静寂の中で髪の毛を切った。カルチャーショックを覚えたが、見せた写真に近い仕上がりになっていたため通うことにした。美容院代が2500円から4400円にレベルアップした。

そこから3年くらいは髪をどんどん短くしていって、うなじが見えるくらいのショートヘアにしていた。働きはじめてしばらくして最近ショートにも飽きてきたから伸ばそうとぼんやり思った。

 

23歳、気まぐれにヘアマスクを買った。コスメのアウトレットショップセルレで半額だったから。

家に帰ってつけてみると髪がサラサラになった。お風呂上がりふんわりと蜂蜜の香りが漂った。

この調子で、と思い美容院に行った。金髪のお兄さんが髪の毛を切ってくれた。髪をドライヤーで乾かしているときに話しが弾んだため、お互いの声が聞こえずに会話がめちゃめちゃになった。

前髪の分け目の短い毛が浮きやすいのでワックスを使ってくださいね。と帰りがけに言われた。23年生きていてはじめて知った情報だった。モチベーションが上がっていたので帰りにヘアトリートメントを買った。

週に2回のヘアマスクと、毎日のトリートメントをするようになって髪に優しくなった。毎晩きちんと髪を乾かしてトリートメントを染み込ませた。

アホ毛と寝癖が劇的に減り、癖毛も無くなった。

高校生のころにサラサラの髪を巻いていた同級生たちや、大学生のころに明るい色に染めていた彼女たちはきっとこういうことをきちんとやっていたのだろうな…と思った。

23歳OLにして、はじめて髪の毛との向き合い方の一端を理解した。もっと早く向き合うべきだった気がしなくもない。怠惰な自分からは目を逸らし、今わたしの髪の毛は人生の中で1番さらさらである。

 

 

夜は短し歩けよ乙女

大学生になってはじめての文化祭の日が彼とはじめて会った日だった。

声をかけたら彼があまりに穏やかな声で応えるのでびっくりしてしまった。異性と話すのが苦手なわたしにとっては青天の霹靂だった。

言葉を交わすごとにどんどん好きになってしまい、好きな作家が同じだと気がついたときには多分もう恋に落ちていた。

相手の心中を推し量って、想像して話すのが上手な彼といるのは心地よかった。空きコマになるとよく彼を探して図書館をうろうろしていた。はじめて好きな本を話すことができた嬉しさと、彼と話せる穏やかな幸福に10代最後の年に夢中になった。

彼が好きな作家のサイン本をプレゼントしてくれたときはとても嬉しかった。

ある日、好きな作家の作品が映画化されることが発表された。わたしが国文学科のある大学に進むことを決めるきっかけになった作品だった。

必然的に彼とその話になった。一緒に観に行く?どちらからともなくその言葉は出た。

一緒に映画観に行こうと話した日の夜、彼から本当に見にいく?という確認の連絡が来た。LINEの返信を打ちながら高鳴る胸を押さえるのに必死だった。完全に恋に落ちていた。彼からは「わーい!」と返信が返ってきた。

 

サークル活動が終わった後に向かった映画館のスクリーンの中では、主人公が恋をしている乙女を必死に追いかけていた。

「なるべく彼女の目にとまる作戦」通称ナカメ作戦を決行する主人公の姿が図書館でウロウロする自らの姿に重なった。

すべてが好きだなあと思った。彼が教えてくれたから、映画を作った監督の名前を知っていた。

映画の終盤、花粉症で鼻水が大量に出る中、鼻をすすらまいと必死になりながら映画を見ていたわたしに、彼はそっとティッシュを差し出した。

画面の中では、主人公が乙女をデートに誘っていた。わたしは彼が手渡してくれたティッシュで静かに鼻をかんだ。

今思い返せば、映画を見ながら鼻水を垂らしつづける女に彼がドン引きしなくてよかったと心底思う。彼は手持ちのポケットティッシュを全部くれた。おおらかなところも好きだ。

帰りにスタバに寄ってわたしはココアを、彼はコーヒーを飲んで感想を言い合った。

池袋駅の地下通路がやたら輝いていた。気がついたら鼻水は止まっていた。本当に良かった。

 

森見登美彦先生の作品は前に増して好きになった。名も知らなかった湯浅政明監督の作品もたくさん観た。

有頂天家族3と、犬王早く観たいね。

遅効性ミッドサマー(ネタバレ含む)

先日、大学の友人とミッドサマーを観てきた。

大まかなあらすじとしてはこんな感じ↓


家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

(「ミッドサマー」公式ホームページより引用)

 

観終わって抱いた感想は、変な映画だなあと思っただけだった。

画面は確かに鮮やかだけど想定外に突然何かが出てくるとかはなかったし、ストーリーも脈絡や繋がりが初見だとついていけない面があった。しいて言えば、となりがIMAXの劇場でそのあおりを受けて脈絡もなく震度3くらいの揺れがときおりくるのが怖かった。

ホルガ村から帰ってこれなくなることも、吐き気をもよおすことも、彼氏と今すぐ別れようとかも思わなかった。なんなら観終わったあとは鮮やかな花に脳内が埋め尽くされて話の筋もよく思い出せなかった。

どこで見た情報か忘れてしまったが、この映画を作ったアリ・アスター監督はホラーではなく失恋映画として作った。ということは知っていた。おそらく突然びっくりするような何かが出てこなかったのはそういうことなのだろうな。と思った。

 

そんなこんなでまあ特に大きな感慨も持たずに日常生活を送っていたのだが、最近になって変化というか、異常が現れ始めた。

個人的な話になるが春休みに突入してからわたしは暇な時間と彼氏と過ごすことが増えていて、その影響か彼氏に対して些細な不満をぶつけることが多くなっていた。

彼氏はバイトなり、サークル活動なりでわたしと会う以外にもそれなりに忙しく過ごしていたが、わたしはコロナウィルスの影響で総崩れした予定を埋めることができずに些細な喪失感を抱きながら暇な日常を過ごしていた。手近な連絡相手は彼氏であった。

わたしと彼氏の日常のバランスが噛み合わなくなっていた。わたしの日常は彼氏6バイト1サークル1その他2くらいで占められる。それに対して彼氏は彼女3バイト2サークル4その他1くらい占められていた。

 

一度ミッドサマーに戻ろう。

ミッドサマーの主人公、ダニーは精神的に不安定で恋人のクリスチャンに何かあるとすぐに電話をしてしまう。映画の中にはダニーにはとくに親しい友人がいるような描写はなく、それに対してクリスチャンには複数人の友人がいて、映画の中でも彼らと良く遊んでいる様子がうかがえる。

家族を失い、生活にも張り合いがなくなったダニーはおそらく、クリスチャンしか外部と交流することをしなくなってしまう。クリスチャンに依存していくダニーはクリスチャンを失うことを恐れはじめる。

ダニーがクリスチャンに対して相談を持ちかけるとき、クリスチャンの答えにダニーは納得していない。それでもダニーは言うのだ。「ありがとう、あなたの言う通りだわ。ごめんなさい。愛してるわ。」と。コップのギリギリまで水が満たされた状況で、少しだけ水をこぼして決壊寸前の土壇場でダニーは誤魔化している。

おそらく、ミッドサマーではそのギリギリが「セッ○スをしないと出られない部屋」で決壊を迎えるのではなかろうか。クリスチャンは正しくて自分が悪い。という悲劇の立場をとって堪えていたダニーがクリスチャンの正当性をそこで明確に失うのであろう。

 

二人の状況、関係性に対してはいろんな人の意見と考え方があるだろうと思う。わたし自身はこのギリギリまで堪えて水をこぼす。というのは身に覚えがあった。わたしも彼氏にいろいろぶつけつつもこちらから「いろいろ言ってしまってごめんね。」という保険を掛けて、愛しているという言葉で結ぶのである。決壊には至らずに。というか、彼氏は決壊に至るほど悪い人ではないし、決定的な出来事はおこっていないから。

わたしの日常の中で彼氏が占める割合が大きくなっている話は先ほどした。春休みになってわたしはダニーの立場に近づいて来ていた。ダニーほどの重い背景はないけれども、日常で憂鬱になることはあって、気軽に頼れるのは彼氏しかいない。その憂鬱を彼氏にこぼしても絶対に全肯定はしてくれない。彼の考え方があるから仕方ないことは理解しつつも釈然としない思いを抱え続けることはあった。それでまた釈然としない思いをぶつけて、それに対して彼氏も謝りつつも「仕方がないところはあるよ…。」と一言付け加える。そしてわたしは「いろいろ言ってしまってごめんなさい。」と答えて、愛している。で締めるのである。

そんな話し合いをしているあるとき、脳内でふとダニーの姿がちらついた。

これはダニーが画面の中でしていた受け答えとまったく同じだった。それに気がついたときパズルのピースが一気にハマるように自分の日常と、ダニーの立ち振る舞いが重なっていった。

 

「ミッドサマー」を恋人と観ると別れる。

 

映画を観ているときは、観終わってすぐのときにはそこまで共感しなかった。しかし今になって、今頃になってその意味の一端を理解しつつある。映画の余韻がまるで蔓のように音もなく近づいている。

失恋映画としての「ミッドサマー」が、関係を断ち切ることで得られる一時の絶頂に似た幸せが花開く日をちらつかせながら。

 

みてくれ寄席感想㊗️

一つ下の後輩が卒業するの嘘じゃん???わたし心はまだピチピチの大学生なんですけど???

嘘です。

 

ツイッターの文字数、例のごとく少ないので感想はこちらに書くよ。

 

①もちまるちゃん「平林」

定吉の間の抜けてる感じが言いようもなくかわいいね。久しぶりに高座を見て、もちまるちゃんは声に穏やかな深みがあるのでご隠居とか若旦那が似合いそうだなあと思いました。

今の時期の活動、本当に大変だと思うけれど頑張ってね…!

 

②三色くん「鼠穴」

ずっと「さんしょく」と打って三色に変換してる。ごめんね。

三色くんはくすぐりいっぱい!笑いどころ沢山!というネタを選ぶイメージがあったから激渋ネタやってるだけで感動してしまった。ようこそ二松落研いぶし銀協会へ。

もともと上手だったけど、笑いどころが少ない重いネタもまったくダレずにしっかり聞かせられるようになっているの、さすがだなあと思いました。日本一おめでとう!

 

③暑男「松曳き」

弟子!!!かわいいぞ!!!!!!

枕いろいろ考えてきたのだろうな…と思って爆笑してしまった。夏男はずっと「笑い」に対して一途で真面目なのですごいなと思っている。

くすぐりをしっかり入れて、笑いどころを押さえているのも夏男らしいな…と聞いてて思いました。笑い声、配信を聞いてて沢山聞こえていたよ。

個人的に「意識高い系?」が卒業寄席の中で1番面白かったよ!

 

④金平くん「百川」

卒業寄席めっちゃ良かったよ!!!とりあえず頑張って!!!!

百兵衛がハマり役だと事前に聞いていたけれど、本当にハマり役だった。

ネタ自体も良い感じにカロリーダウンされてて聞きやすくて面白かった。前「鼓ヶ滝」を聞いた時も思ったけど、くすぐりと噺のバランスが良いネタが合うのだろうな…とあらためて感じました。練習期間短かっただろうに、きちんと仕上げてきていて安定感があったよ!

 

久しぶりに落研ブログ書いた気分だ。

あらためて、卒業おめでとうございます㊗️

 

すず蘭

 

バレンタイン奮闘記2021

 

苦手なことをランク付けると1位に短距離走、2位に図画工作、3位にお菓子作りがいる。

だいぶ前になるが何年か前、珍しくお菓子を作っていた時期がある。ホットケーキミックスを駆使して黒山を作ったり、寒天溶かしたお湯をシンクに流してシンクを寒天コーティングしたりしていた。かなり現実が厳しい。

 

彼氏と付き合い始めて早3年半、4回目のバレンタインを迎えた。1年目、2年目は彼が好きそうな市販のチョコレートを贈っていた。3年目はたまにはと思いほぼ溶かして固めるだけの生チョコレートを贈った。

来る4年目。何を贈る。年に一度のバレンタインせっかくなら彼の好きなものを贈りたい。

1月、ワー◯ドトリガー(彼が1番好きな漫画)のバレンタインチョコレート(市販)を出してくれと星に願った。願いも虚しくそんなものは販売されなかった。七夕の時点で願っとくべきだった。

彼は手作りを強要したりはしないし、好き嫌いもないから何を渡しても喜んでくれる。去年のつたないチョコレートだって美味しいと言って食べてくれた。なので、バレンタインを凝りたい、彼の特別好きなものをあげたいと思うのはは、あくまでわたしのエゴではあるのだけれども。

 

結局、うんうんうなって出した答えは「鳥」だった。

彼は鳥を飼っている。品種はコザクラインコ。目がキュルンキュルンで愛らしく、人懐っこくてピーッと鳴きながらよく人の頭に止まる。お世辞抜きで可愛らしい小鳥だ。わたしは時たま彼の飼う小鳥に会うとブブブブと怒られて指をガジッと噛まれている。すみません。でも欲を言えば仲良くなりたいです。

鳥を飼っていると鳥が好きになるの?と以前聞いたことがある。「うーん、どうだろう。あんまりわかんないなあ」と彼は答えた。

そんな彼は動物園に行くと鳥類の展示場所の滞在時間が他の動物を見ている時間よりもあきらかに長い。道端で鳩やすずめが通りがかれば必ず目で追うし、冬のモフモフ鳥たちを柔らかい表情で「かわいいね…」と眺める。公園の池に鷺が止まれば携帯のカメラを向けてじりじりと近寄っている。鳥大好きじゃん。

 

欲をいえばコザクラインコ、あるいは鳥をモチーフにした菓子はないのだろうか。

「鳥 モチーフ チョコ」

検索したら一件ヒットした。ゴンチャロフのアニマルチョコレート。まんまるでなかなか可愛い。これは良いのではないか?

しかしながら、ゴンチャロフのサイトで検索をかけても鳥のチョコレートがヒットしない。

犬と猫しか出てこない。例年鳥モチーフのチョコを出しているゴンチャロフはどうやら今年は鳥をやめているらしい。

ゴンチャロフの愚策、と思いながら微妙にワードを変えて検索を重ねた。アイシングクッキー専門店の通販、あるいはオーダー制の製菓店の通販はあるがそのほかには出てこない。

通販は期日に間に合わなかったらどうしようという不安があった。あと、あまりネットショッピングをしないから支払いとか送料とか配送とかがうまくいくか不安だ。

頭を抱えて畳の上をゴロゴロ転がり1時間、わたしは自らの手で彼の飼う鳥を錬成することに決めた。

 

錬成するために用意したのは粉砂糖、小麦粉、バター、卵、食紅(赤、黄)、抹茶パウダー、チョコぺん。察しの良い方はお気づきだろう鳥錬成の素はクッキー生地である。あと、卵型に切った型紙とクッキングペーパー。リアルな鳥を再現するのはわたしの技量では無理があるからデフォルメ小鳥を作る予定だ。

 

作れる?本当にいける?

ちなみに、最後に製菓作りをしたのは昨年5月、コロナ禍買いだめ期間に冷蔵庫が壊れ、食材を絶対に無駄にせぬ我が家のポリシーに従い、小麦粉と牛乳、砂糖、あるだけありったけのマーガリンを入れたクッキーを作って以来である。ねえ、知ってる?マーガリンって限界を超えて入れるとオーブンの中から染み出して地獄の釜のごとくグツグツとクッキーのまわりで沸騰し始めるんだよ。出来上がりはなんだかどんぐりに似ていた。食感は固め。大量にできたので朝昼晩問わずボリボリ食べた。地獄マーガリンどんぐりクッキーのおかげか体重は2日で2キロ増えた。

 

さて、材料を混ぜ合わせる。生地作りでボウルの数が足りず頭を抱えたり、卵の量が少なすぎてホロホロパラパラになってしまった生地を無理やり握ったりして2時間、奮闘のかいあってどうにか形にはなった。

切ったりこねたりしているうちにそれっぽいものが2つ出来上がった。

いよいよ焼く工程になった。失敗すれば彼の飼っている鳥を(クッキーといえども)焼死体にしてしまう。重罪。

クッキー、アルミホイルをかけて焼くと焦げ目がつきすぎずにできるという。

いざっ…

 

    〜作り始めて5時間が経過〜

 

アルミホイルのおかげで焼死体にはならずに済んだ。

不器用かつ普段お菓子作りをしないことが祟り肌がちょっと乾燥気味なデフォルメ小鳥ができあがった。

途中天板ごと余熱をしてしまうハプニングはあった(「どうしよう?!」と半ギレで母に電話したところ態度があまりに悪かったのでキレてブツ切られた。)がギリ及第点な気がする…ひび割れたハートクッキーが折れかけている自分の心が重なり合ってなんかすごく愛おしくなってしまった…ああ…

 

顔を描き、くちばしを付けた。

命が吹き込まれている感じがする。多分つぶら黒い瞳(原料チョコ)で見つめられているから。このチョコ、全然固まらなくてラッピングするときヨレかけてヒヤヒヤした。目がドロドロのインコがこちらを見つめているのは結構ホラーだ。冷暗所で保管。

 

本当は11日に練習、13日に本番、15日に彼のもとに持っていく。というようにしたかったのだが11日の時点で疲れ果てたので「もう一回作る気力がないので、デートを早めてほしい。」と連絡をした。こころよく快諾してくれたので、そういうところが本当に好きだと伝えた。

ラッピングを終え、一息ついて、ラッピング用の袋からつぶらな瞳を覗かせるコザクラインコのクッキーをぼんやり見つめた。焼死体を免れたら飼い主に食べられる運命なのか…と思った。情が湧きはじめている。

どうか美味しく愛でてやってくれと思いつつ、バレンタインには少し早い13日にデートの予定を書き込んだ。

 

f:id:almond888:20210212004529j:image

 

次朝・桜二郎二人会鑑賞レポ(全部家)

11月某日。

落研時代にお世話になっていた先輩と、落語に人生を着実に狂わされている親愛なる同期が二人会をやるということで鑑賞してきた。

場所は池袋ということで、なんだかシャレた壁色の貸しスペースが会場だった。

腰を落ち着かせ、会がはじまるのを待つ。Twitterで事前に提示された番組表は「お楽しみ」ばかり。情報0じゃん。なんで提示したんだ。

あれこれ考えているうちに、前座の上がりがなり始めた。開口一番、二松亭菊太夫くんが高座に上がった。

 

https://twitter.com/jicho_ojiro?s=21

 

太夫真田小僧

久々の高座ということでなんだかはにかんでいた。コロナで世の中が激変しても彼は変わらず手足が長くて顔が小さい。

自分の後に出る演者を枕で持ち上げることを決して忘れず、落語も安定していて、しっかり次の演者に繋ぐ、後輩兼前座の鏡だった。

真田小僧、だんだん金銭要求やりとりがスピードアップするのがツボにハマってしまうね。

 

次朝「鈴ヶ森」

太夫くんの枕の流れを汲んだネタの選択。こういうことできるのが次朝先輩だなあと。

多分、ご本人の十八番のネタなので口調や仕草が生き生きしていた。正直、わたしはこのネタを祖父母の顔くらいは見ているけれど、毎回工夫があるからオチまでしっかり見れてしまう。

 

桜二郎「大工調べ」

仕事を辞めるらしい。仕事を辞める話をしている彼の瞳はものすごく澄んで輝いていた。

ふと気がついたら落語めちゃくちゃ上手くなっていたよね…と思った。振り返ると落語をたくさん聞いてたし、練習もかなりしていたのだけれど。高座の上で自然に彼が落語の登場人物になるのは努力と才能の賜物なんだろうなと思います。

 

佐和「たいこ腹」

歯切れが良くて心地良い〜!!!!

今回はゲストということで、佐和さんは江戸っ子がものすごく似合う女の子だ。

結構ブラックな描写が多い噺なのに佐和さんがやると嫌なところが一切ないのが良いな…と思いました。佐和さんの高座、ここ最近は本当に観れてなかったのでまたいつか観れると良いな…とひそかに願っている。

 

桜二郎「目黒のさんま」

肩の力を抜いて観れる一席。お殿様のしっかりしてないところがハマり役だな〜とひそかに思った。こういうと悪口みたいになってしまうな。

膝として、大トリの先輩にしっかりバトンタッチしていたな、と。

 

次朝「紺屋高尾」

長いネタをかけている次朝先輩、本当に良いんですよ。本当に、良いんですよ。本当に。

大事なことなので3回言いました。

緩急がプロだ〜という感じで。今回のネタは一途な感じもご本人に合ってました。

何でこういうネタ普段あんまりやらないんですか?何で???

 

全てのネタが終わったあと、次朝先輩と桜二郎くんが笑いながらやりとりをしていて、会場の空気も暖かくて観に来て良かったなあとしみじみと思いました。演者の皆様お疲れ様でした。

 

 

だいぶ熱がこもってしまった。

なぜ、感想を送る先があるのにブログにこんなに長々と書いているかと言えば、感想フォーラムに送った感想文が長すぎてエラーを起こし、丹精こめた文章が泡沫のごとく儚く弾け飛んだから。

文字制限が厳しいよ。南無三。

美味しいダージリンティー

「美味」という言葉を文字の通りに受け取るとするならば、わたしが今日飲んだダージリンティーは寸分違わずそれだった。

コロナ騒動がひと段落した6月上旬、わたしの仕事は未だにはじまらない。家に引きこもりきりの生活もそろそろ2ヶ月を過ぎた。

家にずっといるのもほとほと疲れてきたし、来週からは本格的に仕事が始まる。思い切って前々から気になっていた町に出かけることにした。

ラッシュを過ぎた昼頃、人が少ない電車に乗って1時間、品と下町の情緒を兼ね備えた商店街に降り立った。

5分ほど歩いて、事前に調べて目をつけていた雑貨店を見つけた。スタンドランプとクッションカバー、化粧ポーチを買い求めた。

想像以上に素敵だったそれらを胸に抱えて、満ち足りた心持ちで商店街をぶらぶらと散歩した。せっかくなので軽めのランチかお茶でもして帰ろうと思った。

初夏の爽やかな空気を感じながら、上機嫌に弾む歩みのために深みのあるブルーに白い小花が散ったシャツの裾がはためくのが心地よかった。

商店街の中には、直感がこれという喫茶店は見当たらなかった。しばらく歩くと商店街を抜けた。

少し電車に乗って、乗り換えのあたりでなにか探そうか。そう思いながら通りを歩く道中、異国への入り口のような扉が現れた。

その扉の両端には金色のインド像の置物が守神のように二つ置かれていた。ここが良い。と直感が告げたがハードルが高く通り過ぎた。

後ろ髪を引かれながら駅に向かってしばらく歩いたが、一歩歩くたびに髪の毛はぐんぐん引っ張られている。ええい、ままよ!

来た道を戻り、再びその扉の前に立った。

1人きり、何かに背中を押されて扉を開けた。絵が飾られた壁を横目に、大きな鏡が置かれた階段を登る。階段を登りきると、柔らかな明るさをたたえた空間に、インドの女神ドゥルガーを背負ったコック帽のインド人が立っていた。

 「お一人ですか?」

そう問われて1人だと答えると中に通された。

店内は窓からさす日光で柔らかく照らされていた。天井は高く、バザールのごとくカラフルな布で覆われている。

柱からはカラフルなランプが吊り下げられ、壁にはオアシスが背景に描かれた人物画が飾られていた。

唐草が彫られた椅子とテーブル、刺繍が施されたソファとクッションがバランス良く配置され、テーブルの上に置かれた真鍮の花瓶には生花が生けられていた。

店内にはわたししか居なかった。

案内された席に着くとガネーシャ像とマンダリンが目に入った。テーブルに目を落とすと、ガラスの下で鹿が踊っていた。

メニューの中からチキンカレーとナン、チャイを頼む。

頼んだ料理ができあがるまで、店内を見渡した。置かれている調度品は数えきれないほどの色を持ちながらも絶妙なバランスを保ち、完璧な美しさを醸し出していた。顔を横に向けると椅子の中に嵌め込まれた小さな絵画と目があった。

しばらくすると頼んだものが銀の食器に盛られて運ばれた。店員さんが親切に食べ方を教えてくれた。

「これ、カライ。」

「これ、パリパリ。」

カレーはさほど辛くはなく食べやすかった。ナンもしっとりとしたバターが効いていた。

食後のチャイは風味をしっかり残しつつも癖があまりなくて美味しかった。お腹も心もほどよく満たされた。

お会計を済まそうと鞄から財布を出すと店員さんがこちらに向かって歩いてきた。

ダージリン、サービス。」

金色のお盆に金属の茶器が乗せられて運ばれてきた。中に入っているのはダージリンティーだった。

目の前に置かれた白い陶器のカップには木苺があしらわれている。

丁寧に飲み方を教えられ、教えられた通りに赤く透き通った飲み物を注ぎ入れた。その時、金属の茶器のずっしりとした重さをはじめて知った。

一口含むと、舌の上に深い香りと味わいが広かった。それは肩の力がゆっくりと抜けるほど美味しかった。

調度品と柔らかなクッションに包まれながら味わい深い紅茶を楽しんだ。

帰り際、撮った写真をツイッターに載せて良いか店員さんに確認をした。了承を得たが、帰りの電車に乗った時にその気持ちはさっぱり消え失せてしまった。

小さい頃、自分の目に宝物に映ったものはきっと人目につかぬように大切にしていた。あまりにも贅沢な時間を過ごしたために、むやみやたらにそのお店のことを人に言うのが嫌になってしまったのだった。

これまでの人生で出会った嫌なことが全部帳消しになるくらい美味しいダージリンティーだった。

電車に揺られながらふとそう思った。

f:id:almond888:20200604154139j:image